【あおガルシナリオ集】小説『晴海distressed』(銀河歌劇団)

2019年1月31日にサービス終了を迎えたスクウェア・エニックスのアイドルゲーム『青空アンダーガールズ! Re:vengerS(リベンジャーズ)』のシナリオ集をお届けします。

この記事では、特設サイトで公開されていたWeb小説『晴海distressed』(銀河歌劇団)を紹介します。

小説『晴海distressed』(銀河歌劇団) ●執筆:稲葉陸


 神楽ヶ丘学園のとある学内プロダクション(通称学プロ)は、崩壊の危機に直面していた。学プロとは、学園内に存在する芸能事務所のようなもので、複数のユニットが所属しているのが通常だ。

 そのとある学プロ崩壊の原因は、やる気のないプロデューサー。さらにいえば、そんなプロデューサーに見切りをつけて、学プロ内の多くの有力ユニットが辞めたこと。結果的に舞い込んでくる仕事は減り、そうなるとさらに多くのユニットが離脱していく負の連鎖。いまとはなっては、残っているのは、よほど学プロに思い入れのあるユニットか、どこも受け入れ先のない、弱小ユニットだけだった。

「諦めなければ、きっとなんとかなかるよ!」

 声を張り上げたのは、銀河歌劇団のセンター 、晴海だ。

 そしてこの銀河歌劇団も、弱小ユニットの部類であると言えた。

「あ、あの。そうは言っても……こ、これ以上選んでいる時間はないっていうか……」

「だったら、バラバラになってもいいの?」

「そ、そうじゃなくて! ……わ、私だってできれば一緒がいい、です。でも、別々だとしても引き取ってくれる学プロがあるって、破格の条件だと思うから……」

 寧々の言うとおり、彼女たちに幸いにして、受け入れ先の学プロにアテがあった。

 ただしそれは、全員バラバラになら、というのが条件。まとめてひきとってくれる学プロは、どこにもなかった。

「それは分かってるけど……」

「わ、私たちの実力で、フリーになるのはつらいんじゃないかなって……」

「そうね。特にくるみと悠はまだ中等部だし、誰か面倒を見てくれる人が必要だわ」

 晴海と寧々の会話に入ってきたのは、麻里紗だ。

 麻里紗はすぐ横に立っている悠とくるみを見る。ふたりは気まずそうに、申し訳なさそうにして、互いを見合わせた。

「く、くるみは、その……うぅ~……ごめんなさいです……」

「自分は、みなさんに迷惑をかけるのがいちばん嫌ですっ! 一緒にいられないのは寂しいですけど……他の学プロに行っても頑張ります!」

 晴海は愕然とした。

 自分は卒業した銀河歌劇団の先輩からセンターを引き継いだとき 、なんとしてでもこのメンバーでトップになる。そう思っていた。

 だけどその思いは自分だけで、みなと正しく共有できていなかったことを知る。

(何やってるんだろう、私……)

 晴海は、自分には特別才能もないし華やかさもないと自覚していた。ただの、凡人。そんな人間がユニットのセンター なんて、やはり無理だったのだろうか。

「……そう。分かった。じゃあ、仕方ないよね」

 晴海はそう言って、精一杯笑ってみせる。

 いまにも溢れそうになる涙を堪えながら、みんなのために。

 これから新しい環境に飛び込んでいくみんなの邪魔をしないことが、センター としての最後の仕事になるだろうと思った。

 晴海はひとり、レッスン室に籠もっていた。

 曲にあわせ、ひたすら身体を動かす。それはレッスンというより、ただ何も考えないようにするための、現実逃避。みんなが他の学プロに行ってしまう以上、自分も受け入れ先の学プロを探さねばならないのだが、どうしてもそんな気分にはなれなかった。

(アテは……ある。だけど……)

 このままだと、崩壊する学プロから逃げ遅れてしまうことは分かっていた。本当に自分だけ受け入れ先が決まらず、フリー。しかも無名の見習いのアイドルなんて、誰も使ってくれはしないだろう。かたちだけでも学プロに所属しているいまのうちに、次を決めなければならなかった。

(みんなは、平気なのかな……)

 晴海はみんなの気持ちが分からなかった。だけど、面と向かって尋ねるのも怖かった。本当は銀河歌劇団にはなんの未練もなくて、体裁上哀しんでいるふりをしているだけ、などということが分かったら、晴海はもう二度と立ち上がれない気がしていた。

 いまならまだ、銀河歌劇団の楽しかった思い出だけを抱いて、次のステージへ進める。銀河歌劇団の解散は、やる気のないプロデューサーのせいで、自分は悪くない。そう思うことができる。

(分かってる……んだけど……!)

 晴海は身体を止めて、その場に立ちつくす。

 ただ音楽だけが流れ続けるレッスンルームで乱れた息を整え、汗まみれの首筋を手でぬぐった。

「やっぱり、気になるよね……」

 これ以上他のメンバーの邪魔をしたくない。

 メンバーの本音を聞くのが怖い。

 それは変わらなかったが、このままでは自分もどこにも行けなくなってしまうと思い……。

 他のメンバーの様子を見に行くことにした。

 始めに向かったのは、悠とくるみのところだった。

 ふたりは中庭のベンチで昼食を摂りながら、雑談していた。

「あの悠くん、新しい学プロさんでの調子はいかがなのですか?」

「いい調子だよ。自分がいままでにないタイプだって、重宝されてる」

 晴海はいきなり飛び込んできた悠の言葉に驚いた。

 まだ悠は銀河歌劇団の一員だが、他の学プロでレッスンをしている……? そんな話、一度も聞いたことがない。

 晴海は自分のお弁当もったまま固まって、動けなくなった。

「それはよかったです! 悠くん小さいから新しいところでコラーって虐められないか、心配だったのです!」

「え、えぇ~っ!? 自分、そんなに小さくないよ!」

 中等部のふたりと大人っぽい麻里紗が一緒にいると、周囲から銀河幼稚園だなんて呼ばれることがある。そのイメージが先行して悠まで小柄に見られるが、実は一五〇センチ台と、意外と小さくはない。

「小さいのはくるみのほうだろ?」

「そんなことはないです!」

「誤魔化しようがないと思うんだけど……」

「大型ほ乳類舐めるなよ、です!」

 悠は、それを言うなら自分だって大型ほ乳類だと思った。

「それにくるみは成長期なので、最近身長が伸びたのです! もしかしたら、もう悠くんを抜いているかもしれませんよ?」

「えー、嘘だぁ。そんな簡単には抜かれないって」

 そう言ってふたりは、ひざの弁当箱をベンチの上に置く。

 そして立ち上がると、背中合わせになった。

「……悠くん」

「何?」

「これ、悠くんとくるみ、どっちが高いですか? 誰か見てくれるひとがいないと分からないです」

「……そうだね。ふたりだけじゃ分からないね」

 ふたりは早々に諦めて、再びベンチに座った。

 いまのは一体、なんの意味があったのだろうと晴海は苦笑する。

 ちなみに身長は、悠の方がまだまだ高かったが、たしかにくるみも以前に比べると、大分大きくなっているような気がした。

「ひとまず勝負はおあずけです。くるみも新しい学プロさんで、いっぱいいっぱい大人になって、いつか悠くんに完全勝利するです」

「ああ、楽しみにしてるよ。でも自分だって、そう簡単に負ける気はしないからねっ!」

 そう言って笑いあうふたり。

 晴海はそんなふたりを見て、自分がそこに入っていく余地はないと感じた。

 結局、悠とくるみには話しかけられないまま、今度は麻里紗の教室へとやってきた。

 麻里紗は銀河歌劇団唯一の三年生で、メンバーのお姉さん的存在だ。

 晴海は麻里紗とふたりになると、弱音を吐いて頼ってしまうのではないかと心配していた。事実、これまで何度もそうしてきたし、何度も助けられた。

 だけどいまは、そうしたくなかった。最後の最後ぐらい、自分がセンター としてきちんとやれているのだと、麻里紗にも認めてもらいたかったからだ。

 そして結果的に、その心配は杞憂に思った。

 なぜなら先客がいて、麻里紗はそのひとの相談に乗っていたからだ。

「あの、麻里紗さん、私、どうしたら……」

「寧々はもう、次に行く学プロは決まっているんでしょ?」

「決まっている、というか……はい。前に仕事で一緒になった学プロのプロデューサーが、良かったらうちに……って」

 寧々だった。

 晴海は少し複雑な気持ちになる。

 寧々とは同じ学年で、それなりに頼られている自負があったが、いざとなると自分ではなく、麻里紗のところに相談に行くのだなと思ったからだ。たしかに麻里紗は頼りになるし、甘えたくなる気持ちは痛いほど理解できるのだが……であれば、センター は最初から麻里紗にお願いすればよかったのでは、などと考えてしまう。

「だったら、どうしたらいいか、という質問は正しくないわね」

「正しくない……ですか?」

「そうよ。だって寧々はもう次の学プロも決まっていて、晴海にこれ以上心配をかけたくないから、私のところに来たのよね?」

「……はい」

「つまり、不安なのね。どうしたらいいか、ではなくて、不安に押しつぶされそう、ということよね。その気持ちを誰かに分かって欲しかった」

「……そうです」

 麻里紗の言うことは的確だった。

 相手の気持ちになって考え、いまそのひとが最も欲している言葉を与える。だからみな、麻里紗を頼ろうとするのだ。彼女は大きな心で、どんなことでも受け止めてくれる。安心、させてくれる。……晴海はまた、自分には絶対にできないことだと落ち込んだ。

「新しい一歩を踏み出すことは、怖くてつらいものよ。でも、これだけは覚えておいて」

 麻里紗は目を閉じ、噛みしめるようにその言葉を吐いた。

「僕の前に道はない。ぼくの後に道は出来る」

 それは日本の有名な詩人、高村光太郎のものだった。麻里紗はよく、こうして偉人の言葉を引用する。

「ど、どういう、意味ですか……?」

「寧々はアイドルになりたいと思ってこの学園に入った。晴海と出会って銀河歌劇団に入った。……それは、最初から誰かに決められていたこと?」

「いえ、そういうわけでは……」

「そうよね。寧々はこれまでも、そうやって自分で考え、選んできた。自分で道を切り拓いてきたのよ。だから、これからもそうしていくべきだわ」

 寧々は麻里紗の言葉に、胸をうたれた。

 勇気づけられ、その通りだと思った。

「だけどやっぱり、いまの寧々みたいに道に迷って立ち止まってしまうことはあると思うの。そういうときは後ろを振り返ってみて。そこには自分が選んで歩いてきた道が続いているはずだから。……寧々ならできるわ。自信をもって」

「麻里紗、さん」

 胸をうたれたのは寧々だけではない、晴海も同じだった。

 事実麻里紗は、晴海も近くにいることを分かっていて、この言葉を口にした。

 寧々を励ますと同時に、晴海にも自信を持って欲しいという願いがあった。

 銀河歌劇団のセンターである晴海に、みんなついていった。 晴海にひかれて、いまここにいる。そしてその全員が、銀河歌劇団を愛しく思い、だからこそ別離の岐路に立って苦しんでいる。そのことを忘れないで欲しい、と。

 晴海は麻里紗の言葉を受けて、胸が苦しくなった。

「ありがとうございます、麻里紗さん……! 私、が、頑張ります!」

「ええ。応援してるわ」

 笑顔になり、走り去っていく寧々。
 晴海はその後ろ姿を頼もしく思い、きっと寧々ならもう、自分たちがいなくても大丈夫だろうと思った。

 晴海は再びレッスン室に戻ってきた。

 誰もいない部屋の中央に、腰を下ろす。

 このときの晴海は決して後ろ向きではなく、むしろ素直にみんなを応援しなくてはと思えるようになっていた。

 いまみんなに会ってきて、誰もが銀河歌劇団を大切に考えてくれているのが分かった。自信がついたし、解散は必ずしも悪いことではないと思えた。第一、いくら大好きで愛しくても、別れの時は必ず訪れる。銀河歌劇団の場合、それがいまというだけだ。

(みんながアイドルとしてひとつ上のステージに行こうとしている。それを私みたいな半端者が邪魔していいはずがない)

 晴海は自分を、アイドルとしての才能がないと思っている。それは卑屈でもなんでもなくて、周りのアイドル候補生を見てきての、素直な気持ちだった。

 そもそも、自分には確固たる信念がない。憧れのアイドルに人生を変えられたわけでもないし、明確なヴィジョンがあるわけでもない。ただ幼少期、アイドルに憧れ、自分もこんなふうに輝けたら、誰かを笑顔にできたらと思っただけだ。

 だったらなおさら、自分の役目はそんなみんなを応援することだ。もちろん、アイドルになる夢を諦めたわけではないので、自分は自分で頑張ればいい。それだけの話だ。
「銀河歌劇団、楽しかったなぁ」

 ふと笑みをこぼす。懐かしくなり過去に思いをはせると、色々なことが蘇ってきた。

 悠とくるみが一緒に入ってきたときは、本当にこんな小さい子たちとやれるのかと、不安になったものだ。くるみなんかは最初の自己紹介で噛んで、それだけでもうユニットには入れてもらえないと落ち込んで、なだめすかすのに半日はかかった。

「寧々ちゃんも最初は大変だったっけ」

 晴海と寧々は、学園の中等部時代にいまの学プロに入った。当時、寧々はいま以上に引っ込み思案で、同期だった晴海がよくフォローしていた。そのせいなのかもしれないが、いまだに寧々は晴海に敬語で、晴海は一体いつ話し方を変えてくれるのかなと思っている。

「麻里紗さんにはお世話になりっぱなしだし」

 思い返せばキリがなかった。そして、そろそろ私も自立しないといけないなとも感じる。だから銀河歌劇団の解散は、いい機会なのかもしれない。

 晴海は気合いを入れて立ち上がった。そしてよし! とポーズをとり、音楽も流さずにレッスンを始める。

 解散を受け入れると決めたなら、新しい学プロを探さなければならない。そのためにも、自分磨きは必要だ。

 しかし、晴海はすぐに動きを止め、そして床に力なく崩れ落ちた。 身体に力が入らない。大量の汗が滴る。気づけば床に、小さな溜まりができていた。

「……あ、あれ?」 涙だった。

 たくさんの思い出が晴海のなかから溢れ、止まらなくなった。

 晴海は自分に嘘をつき、これで良かったんだと納得しようとしていたのだ。銀河歌劇団の解散は哀しいことではない。みんなが前に進むために、必要なことだと。

 だが、理屈でいくらごまかしても、割り切れるものではなかった。

「嫌だよ……。みんなと、離れたくないよ……」

 人一倍仲間想いの晴海が、はじめて口にしたわがままだった。

 声を殺し、ひとり泣く。

 床に溢れた涙が戻らないように、銀河歌劇団も一度離れてしまえば、二度と戻ることはない。……晴海はそのことを、よく分かっていた。

青空アンダーガールズ!Re:vengerS ・販売元: SQUARE ENIX Co., Ltd.
・掲載時のDL価格: 無料
・カテゴリ: ゲーム
・容量: 155.7 MB
・バージョン: 2.0.6
※容量は最大時のもの。機種などの条件により小さくなる場合があります。

c SQUARE ENIX CO.,LTD. All Rights Reserved.

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