後方を護衛するSUVのリアウィンドウが開いている理由
セキュアパッケージの後方には3種のSUVが走っていますが、これらの役割には明確な違いがあります。SUVの2台はリアウィンドウが開いており、1台は開いていません。この2台のSUVは「ハーフバック」と「キャットカー」と呼ばれています。
ハーフバックはキャラデック・ワンを守るのが仕事で、キャットカーは攻撃者に対して反撃するのが仕事です。リアウィンドウが開いているのは、銃撃戦になった際にすぐに撃ち返すためです。
リアウィンドウが閉じているのは「コントロールカー」です。コントロールカーには、大統領の軍事補助員や医師などの重要な人員が乗せられています。
「セキュアパッケージ」の前には、ルートカー、パイロットカー、リードカーと、スイーパーと呼ばれるたくさんのバイクが走っています。ルートカーとパイロットカーの役目は、前方の経路を偵察し、情報をリードカーに伝え、セキュアパッケージ経由で後ろの行列につなげることです。
バイクは、護衛フォーメーションを先導し、邪魔になるものを除外したりして、ルートを確保する重要な手段です。彼らは、何らかの理由で車列を迂回させる必要が生じた場合、ルートカーとパイロットカーがまっさきに対応する役目を担っています。
彼らが活躍した実例として、1996年に当時のビル・クリントン大統領がフィリピンを訪問し、マニラで地元の政治家と会談する際の移動で起きた事件があります。大統領を乗せた車両の行列の途中、諜報部員は「Bridge(橋)」と「Marriage(結婚)」という言葉を含むメッセージを拾いました。
「結婚」は暗殺のコードワードとして知られていたため、ルートカーとパイロットカーは即座に道を変え、近くの橋から迂回する判断をしました。その後の調査では、その橋の下には実際に爆弾が仕掛けられていたことが判明。結果的に、車両は危険から逃れたのです。ちなみにこの事件は、オサマ・ビンラディンによって計画されたと言われています。
◇ それでも車両での移動は「30分以内」でしか使われない
他にも「セキュアパッケージ」の後ろには、他の対監視機関と連絡を取る「IDカー」、移動式通信センターとして機能する「ロードランナー」、化学・核・生物攻撃に対応する機器と人員を含む危険物軽減ユニットなどの支援車両などが含まれています。
これだけ徹底しているのであれば、大統領の移動手段は車両が一番安全なように思えます。しかし、彼らシークレット・サービスは全く逆で、それでも「車での移動は、大統領の身が最も脆弱になる瞬間だ」と考えているのだそう。
そのため、この車での移動方法は、30分以内で移動できる距離にのみ使用される決まりです。他の移動方法としては、航空機関である「マリーンワン」「エアフォースワン」などがありますが、この移動方法では1時間に15万ドル(1700万円)以上かかるとのこと。とはいえ、国の最重要人物であるアメリカ大統領を守るためであれば安いものです。