ミサイル防衛の切り札「THAAD(サード)」の仕組みと〝モヤモヤする〟迎撃率
米軍は何発の核弾道ミサイルを迎撃できるのか?
弾道ミサイルにはデコイという「おとり」があります。R-36サタンのような典型的な弾道ミサイルは、途中で50個の核弾頭を放出することができます。しかし、実際にはそのうちの10個だけが本当の核弾頭です。つまり、残りの40個はデコイということです。この弾頭搭載方式を、MIRVといいます。
弾道ミサイルがデコイを使った場合、1つのターゲットから50の異なる動くターゲットに変化し、その中から本物の弾頭である10個を迎撃しなければならなくなります。防衛システムは、貴重な迎撃ミサイルをデコイに浪費しないよう、デコイと本物を識別する必要があります。また、ミサイルのノーズコーンなどの破片も識別の難しさに拍車をかけます。
低解像度のレーダーでは、個々の物体を追跡することはできても、本物の弾頭とデコイを識別することはできません。そのため、米軍は海上配備のXバンドレーダーで、弾頭を正確に追跡し、本物の弾頭かデコイかを識別しています。
また、アラスカ州のクリア宇宙空軍基地で建設されている長距離識別レーダーも本物の弾頭かデコイかを識別することができます。また、その軌道をリアルタイムで迎撃ミサイルに伝達できる予定です。この長距離識別レーダーは、2022年末の運用開始に向けて現在最終仕上げを行っています。ちなみに、建設には7億8400万ドル(約1,100億円)という莫大な費用がかかっています。
米軍は結局、現実的に何発の弾道ミサイルを迎撃できるのでしょうか。
もし、弾道ミサイル1発に10個の弾頭と40個のデコイが搭載されていたとします。そして、識別レーダーが10個の弾頭をすべて識別できると仮定しましょう。そうすると、計算上は44ヵ所から発射された地上配備型迎撃ミサイルで少なくとも4発の弾道ミサイルを破壊できるはずです。
ですが、現実はそううまく行かないはずです。地上配備型迎撃ミサイルが実際に1つの弾頭を迎撃できる確率は56%しかありません。つまり、10個の弾頭を搭載した1発の弾道ミサイルは、米軍の地上配備型迎撃ミサイルを簡単に圧倒し、本土を攻撃できるということです。
確率的には半分以上は撃ち落とせるものの、4割程度は着弾する可能性があるという意味でもやもやとした気分にさせられる数字です。しかし、複数の防衛ラインを組み合わせることで、最終的にはすべてとは言わないまでも、ほとんどの弾頭を破壊することができます。これこそが、米軍のミサイル防衛システムが多層に依存している理由なのです。
とはいえ、現在のシステムでは超音速ミサイルなどの対処は難しいと考えられており、全ての弾道ミサイルを迎撃することは不可能でしょう。米軍のミサイル防衛システムの現在の目標は、小国からの弾道ミサイルの脅威を最小限に抑えることであり、核の全面戦争を抑えられるようなものではないのです。