スティーブ・ジョブズが「世界一普及した動画フォーマット」を葬った裏事情

「Adobe Flash」に変わる新技術とは?




そしてAppleは、Flashの代替品となる「HTML5」の開発に力を注ぎ出します。Flashの場合、プロセスは非常に複雑で、Webデベロッパーを雇う必要がありました。一方、HTML5はWebサイトの制作などを効率よく簡単に行うことができます。

またAppleは、Adobeに対する個人的な恨みからFlashの置き換えを推し進めたわけではなく、モバイルで使うのであれば、単にHTML5の方がより良いブラウジング体験を提供できると考えていました。

なぜなら、HTML5では、プラグインをインストールする必要がなく、処理能力も消費電力も抑えられるからです。

そして、最大のメリットは、HTML5がオープンソースであるということです。つまり、セキュリティホールや最適化の問題を解決する時にAdobeに頼ることなく、Appleが直接問題を解決できるということです。


当然、AdobeはFlashを見捨てるようなことはしませんでした。彼らはすぐにAppleのデバイスを批判し始めます。

Adobeの主張は、オンラインのビデオの75%がFlashであるため、Appleデバイスは、完全なWebにアクセスすることができないというものでした。しかしAppleは、ほとんどのビデオコンテンツは他のフォーマットやiOSアプリとして提供されているため問題無いと反論しました。

ただ、実際にはiPadユーザーはiPhoneユーザーと違い、個別のアプリをダウンロードするのではなく、Safariで直接インターネットを閲覧していました。そのため、FlashをサポートしていないことがiPhoneよりも目立ってしまい、FlashコンテンツがあるWebサイトに穴があいてしまうことがあったのです。


スティーブ・ジョブズは、All Things Digitalカンファレンスで実際にこの問題について直接質問されました。

ジョブズはその際「多くのFlashコンテンツがHTML5に更新され、iPadで見られるようになっている」と答え、FlashベースのWebサイト全体にアクセスできないのかという質問には回答を避けました。


当時、この問題はiPadの大きな欠点といわれ、Samsungなどの競合他社は自社のタブレットを宣伝する際にこの問題を利用しました。

Adobeもこの問題を、Appleにできるだけ悪評を立てるための機会として利用しました。

また、Adobeは、FlashをサポートしないというAppleの決断は反競争的であり、違法である可能性があると主張し、定期的にAppleを攻撃しました。

AppleはFlashで配信されるコンテンツを防ぐことで「App Store」を守っていて、AppleはオープンであるFlashとは異なりクローズドなシステムを好んでいるといわれました。


しかし、実際にはその逆です。

FlashはAdobeの完全所有であり、製品に加えられたすべての変更をAdobeが管理しています。一方、Appleが開発者に採用を促していたHTML5は、オープンソースでした。

つまりHTML5は、誰もが開発に参加し、変更し、機能を追加することができるのです。

AdobeはAppleを提訴することはありませんでしたが、その非難は強く、ジョブズは公の場で反論せざるを得なくなりました。


ジョブズは、「Flashについての考え」という手紙を書き、AppleがiOSでこの製品をサポートしないことを決めた理由を以下のように説明しています。

Flashはマウスを使うPCのために設計されたもので、指を使うタッチスクリーンのために設計されたものではありません。例えば、多くのFlash Webサイトは、マウスの矢印が特定の場所に重なるとメニューや他の要素がポップアップする「ロールオーバー」に依存しています。

Appleの革新的なマルチタッチインターフェースはマウスを使わないので、ロールオーバーという概念がありません。よって、ほとんどのFlash Webサイトは、タッチベースのデバイスに対応するために書き直す必要があります。

開発者がFlashのWebサイトを書き換える必要があるのなら、HTML5やCSS、JavaScriptといった最新の技術を使えばいいのです。

そして手紙の最後には「HTML5のようなモバイル時代に作られた新しいオープンスタンダードは、モバイルデバイス、そしてPCでも使われることになるだろう」と書かれています。


Adobeは、過去を捨てたAppleを批判するよりも、未来に向けた素晴らしいHTML5のツールを作ることにもっと力を注ぐべきなのかもしれません。

ジョブズは驚くほど正確に未来を予測することに成功しましたが、その手紙にはAppleがFlashを採用しなかったすべての理由が書かれていたわけではありませんでした。

6年後、かつてAppleでソフトウェア開発マネージャーを務めていたボブ・バロウのツイートで、Flashの技術的な問題はAppleがFlashを採用しなかった理由の一部分に過ぎなかったと明かしています。


AppleがFlashを採用しなかった別の要因は、AdobeのCEOのシャンタヌ・ナラヤンが関係しているとバロウは発言しています。


バロウによると、AppleがFlashをサポートしない理由として一般的に挙げていたのは、UIの悪さと過剰な電力消費でした。しかし、最大の理由は「シャンタヌ・ナラヤンがAppleチームからの電話に出ないからだった」と説明しています。

彼は、ソフトウエアのバグを修正するのは、単なるエンジニアリングの問題だと考えていたのです。しかし、Adobeとの間にオープンな対話がなければ、それを期待することはできないとAppleは考えていたのです。

ただ、ユーザーはAppleとAdobeが揉めていても、iPadがFlashをサポートしていなくても、iPadを買い続けました。


そして、iPadはタブレット市場を席巻し続け、WebサイトがFlashからHTML5へと移行し始めると、この争いは次第に意味をなさなくなっていきます。

まさに、ジョブズが予言した通りの未来になりました。

ついにAdobeは、2017年の発表で2020年12月31日にFlashのサポートを終了することを告知しました。そして、2021年1月12日にFlashコンテンツの実行を完全にブロックしたのです。


これがAppleがFlashの消滅を加速させたといわれる理由です。



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